響きの森文京公会堂 文京シビックホール

~2018年10月24日(水)「チック・コリア×小曽根 真」~小曽根 真(ピアノ)インタビュー&チック・コリア(ピアノ)メールインタビュー

小曽根 真(ピアノ)スペシャル インタビュー

ピアノ 小曽根 真 Makoto Ozone

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©中村風詩人

 1983年バークリー音大ジャズ作・編曲科を首席で卒業。同年米CBSと日本人初のレコード専属契約を結び、アルバム「OZONE」で全世界デビュー。以来、ソロ・ライブをはじめ世界的なトッププレイヤーとの共演や、自身のビッグ・バンド「No Name Horses」を率いてのツアーなど、ジャズの最前線で活躍。
 近年はクラシックにも本格的に取り組み、国内外の主要オーケストラと共演を重ね、高い評価を得ている。映画音楽など、作曲にも意欲的に取り組み、多彩な才能でジャンルを超え、幅広く活躍を続けている。平成30年春の褒章において、紫綬褒章を受章。

 オフィシャル・サイト http://makotoozone.com/

取材・文:高坂はる香 写真:星ひかる

親戚の兄貴みたいな存在ですね(笑)

——まずは紫綬褒章の受章、おめでとうございます。

 ありがとうございます。クラシックとジャズをつなぐ演奏活動を評価していただけたということで、本当にありがたいです。みなさんが僕の音楽を信じてくださったことが受章に繋がり、今回の褒章がみなさんへの恩返しのしるしになれば嬉しいと思っています。40歳をすぎてクラシックを始めた自分がこうして活動を広げてこられたのは、両方のジャンルで引っ張ってくれた音楽家や関係者の方々、支えてくれる家内や育ててくれた両親、そして、僕の音楽をおもしろいと聴いてくださったみなさんのおかげです。

——さて、今度のチック・コリアとの共演は、20年越しで実現した2016年の全国デュオツアー以来となりますね。

 前回のツアーは本当に楽しくて、もっとたくさんやりたかったくらいなんです。彼のソロコンサートでも、結局僕もステージに上がって一緒に演奏していましたから(笑)。とにかく“JOY”に満ちた時間でした。とはいえ、お客さんがそれを受け取ってくれなくては意味がない。そのためには、僕たちがみなさんの心を開くような音を鳴らさなくてはいけません。チックは、そういう音楽の塊みたいな人ですね。

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——お二人が出会ったのは約30年前で、チック・コリアがライブのために、当時小曽根さんが学んでいたバークリー音楽院を訪れたときのことだそうですね。

 はい、あれは前半が学生バンド、後半がチック・コリア・トリオの演奏というコンサートでした。僕たちは前半に演奏して、チックの曲も取り上げたのですが、僕がアドリブを弾いたところで後ろから”Oh, Yeah!”っていう声が聞こえて……振り返ったら、すぐ後ろでチックが聴いていたんです!僕もまだデビュー前でしたし、そんなに近くでチック自身に聴かれているとわかったら緊張してしまって。それまでいい感じだったのに、カチンカチンに力が入るわ、テクニックで押し通そうとするわで、その後は散々でしたね(笑)。
 あの頃の僕はオスカー・ピーターソン〈*1〉に憧れていましたが、ピーターソンの音楽からぬけ出そうと他の音楽も聴き始めていました。チックの音楽を追いかけた時期もあります。チックはいつも自分の知らないものを求めている人だから、当時、そういう意味では僕にそれほど興味を持っていなかったのではないかと思いますね。

〈*1〉オスカー・ピーターソン(1925~2007)
カナダ出身のジャズ・ピアニスト、作曲家。ジャズ界きっての超絶技巧を誇り、88鍵をフルに使いこなすダイナミックな演奏と流麗なアドリブから、「鍵盤の皇帝」の異名をとる。

——その関係性が変わったのは、いつ頃でしょう?

 1996年です。パルテノン多摩で行なったチック・コリアプロデュースのコンサートで、僕がゲイリー・バートン〈*2〉と共演しているのを聴いて、興味を持ってくれたようです。そしてその翌年、モーツァルトの2台ピアノの協奏曲で初めてチックと共演しました。
 もう一つおもしろいのは、妻の(神野)三鈴とチックの関係性です。どうやら目が合った瞬間に、お互い「前世から知っている」って感じたらしいんですよ。不思議なんですけれど、これをきっかけに僕とチックの距離もぎゅっと縮まり、さらにチックのおかげで僕たち夫婦の関係が深まったこともあります。親戚の兄貴みたいな存在ですね(笑)。

〈*2〉ゲイリー・バートン(1943~)
アメリカ出身のヴィブラフォン奏者。革新的なヴィブラフォン奏法と、これまで6回のグラミー賞を受け、数多くの名作を残している伝説的プレーヤー。
2017年に演奏活動を引退。

できないことは宝物

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——デュオツアーで共演を重ねて、新しい音楽的な発見はありましたか?

  チックは本当に自由で、ステージで何をするかわからない人なので(笑)、新しい発見だらけでした。ジャズの一般的な流れに凝り固まることなく、例えば僕がテーマを弾いているときでも横から音楽で話しかけてきて、すぐに魅力的な演奏にしてしまう。おかげで、「これが普通だ」という考えを持つこと自体が間違っていて、今やっている音楽に身も心も捧げた状態で、鳴っているものが真実の音であるなら、何が起きたっていいのだと気づきました。チックに改めてジャズを教わりましたね。
 一つ印象に残っているのは、兵庫公演での出来事。公演を重ねて曲に慣れていくと、僕も演奏中にメチャクチャないたずらを仕掛けるようになるのですが、公演前半に相当楽しんで弾いて袖に帰ってきたら、“君はクレイジーだ!!” ってチックがタオルを投げてきたんです。チックにクレイジーって言われるなんて、これほどの褒め言葉はないなって思いました(笑)。

——この20年、チック・コリアの音楽に変化を感じますか?

 彼は常にすごい勢いで変化していますから、追いかけるほうからすると、ちょっとスローダウンしてよと言いたくなるぐらいです(笑)。
 でも実際近くで見ていると、彼は本当に自分がやりたいことだけをやっていて、力が抜けた状態なんですよね。自分が周りにどう見えているかという考えが微塵もない。とても大きな人だと思います。

——共演者として、演奏中のチック・コリアを燃え上がらせるものはなんだと思いますか?

 その瞬間に生まれる真実の音。それしかありませんね。ただ、これは決して狙って出せるものではありません。硬くなったり緊張したりすることもありますが、音楽で言いたいことをちゃんと伝えようとする、真摯な姿勢を貫くことが大切です。
 チックとの共演は、ステージの怖さがわかっている者同士という感覚があるので、いつでも真剣勝負ですし、時には助け合うことで互いを高め合いながら演奏しています。

——フレッシュな音楽を生むために、小曽根さんが日頃心がけていることはありますか?

 クラシックもジャズもジャンルに関係なく、できる限り人の演奏を聴きに行くことです。そうすることで、自分の中で何かが活性化されていきます。
 もう一つは、“逃げない”“こなさない”ということです。慣れてくると、こなそうと思えば何十コーラスだってうまく弾くことができるようになりますが、「今日は(アドリブは)降りて来ない」と感じたらそれを認めてやめる勇気も大切です。これは、自分と向き合うということでもあります。

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 お客さんは、みんなギリギリの挑戦がおもしろくてジャズを聴きにくるんです。上手に演奏されたっておもしろくない。演奏家が行ったことのないところに行くのを聴くのが楽しいのですから。
 僕の座右の銘に「できないことは宝物」というのがあります。できないことがわかった瞬間、自分が練習すべきこともわかります。
 そんなできないことに向き合い、力を試す究極の場が、アドリブです。同じ曲をやっていても、昨日と同じ場所には絶対に行かない。自分が持っていないボキャブラリーの表現に飛び込んでいく。怖いけれどそれをしないと、おもしろくないんですよね。たとえ表面的なミスタッチがあっても、挑戦をした日のほうが、音楽のエネルギーはずっと大きい。聴衆とは、それを感じてくれるものだと思います。

小曽根 真 スペシャルメッセージ

チック・コリア(ピアノ)スペシャルメールインタビュー

ピアノ チック・コリア Chick Corea

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©Toshi Sakurai

 1941年マサチューセッツ州生まれ。キーボード・プレイヤー、作曲家、バンドリーダーとしての顔を持つチックは米国ダウン・ビート誌では殿堂入りを果たし、全米芸術基金(NEA)よりジャズ・マスターの称号を授与され、数々のラテン・グラミー賞受賞、また本家グラミー賞に至ってはノミネート63回、22回受賞という歴代4位の記録を誇る。
 チックのクリエイティブなスピリットは留まることを知らず、彼自身も作品を通して自己改造し続けいている。ニューヨーク・タイムズ紙は「才能があり、活気にあふれ、いつまでも青年のような人物」と称している。

 オフィシャル・サイト http://chickcorea.com/

取材・文:高坂はる香

——お二人が出会ったのは約30年前、チックさんがライブのため、当時小曽根真が学んでいたアメリカのバークリー音楽院を訪れた時だそうですね。ライブの前半では、小曽根 真たちの学生バンドが演奏したそうですが、当時のことは覚えていらっしゃいますか?当時と今で、小曽根 真のどんなところに変化を感じますか?

 30年前に初めて会った時から、私には彼が天才だということがわかっていましたよ!彼は、作曲家、ピアニストとして成長し続けていますし、クラシックのレパートリーの演奏には、今や目をみはるものがあります。ジャズピアニストとして、クラシック音楽の世界でこれほどに成功し、こんなにも深いところまで冒険をしている存在は、初めてなのではないかと思います。

——2016年には、お二人にとって念願だったという、デュオによる全国ツアーが行われました。小曽根 真とのツアー中の出来事で最も印象に残っていることはなんでしょうか?

 たくさんの記憶に残る経験がありましたが、なかでも私にとっての一つのハイライトは、指揮の尾高忠明さん、NHK交響楽団と、モーツァルト作曲「2台ピアノのための協奏曲」を演奏したことです。モーツァルトの音楽でインプロビゼーション(即興)をすることは、とにかく楽しかったですね。

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©Aaron Meekcoms, courtesy Chick Corea Prod.

——自作曲、ジャズのスタンダード曲やクラシック作品、インプロビゼーション(即興)や、ほかのミュージシャンとのセッションなどいろいろなスタイルの演奏をされますが、それぞれのステージで心境に違いはありますか?

 私は、どんなジャンルの音楽も違うスタイルでの演奏も、すべて同じようにみんな大好きです。そこには常に、新しいものを創造することの喜びがあります。また、自由なセッションを行うときに心掛けているのは、良いコミュニケーションを取るということです。

——チックさんはいつも、一つのピアノから実に多彩な音を鳴らしていらっしゃいます。あのように多様な音、またご自身にとって理想的な音を鳴らすうえで大切なことはなんでしょうか。

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まず大切なのは、音を鳴らすことを楽しむということですね。そして、その音が、共演者や聴衆とコミュニケーションをとるためのものだと感じることも大切です。コミュニケーションこそが、音楽の真の喜びだと私は思います。

——子供の頃、最初に音楽の喜びを感じてから、ご自身の人生の中で音楽はどんな存在だったのでしょうか?

 あの頃から、何らかの方法でずっと音楽を創り続けることになるだろうと知っていたように思います。
 私は常に音楽を愛し続けてきました。私にとって音楽を創造することこそが、人生の喜びなのです。

プロフィール

取材・文 高坂はる香

音楽ライター、編集者。大学院でインドのスラム支援プロジェクトを研究。その後2005年よりピアノ専門誌の編集者として、ピアニストや世界の国際ピアノコンクール等の取材を行う。2011年よりフリーランスとして活動。雑誌やCDブックレット、コンクール公式サイトやWeb媒体への寄稿のほか、
「クラシックソムリエ検定公式テキスト」の編集などを手掛ける。
HP「ピアノの惑星ジャーナル

チック・コリア × 小曽根 真

2018年10月24日(水)19:30開演 文京シビックホール  大ホール

公演情報

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