響きの森文京公会堂 文京シビックホール

~ばっちり予習~オススメ公演の聴きどころ指南 文京シビックホールの注目公演を音楽ライターが徹底解説。これを読めば公演がより一層楽しめること間違いなし。

夜クラシックVol.16

2018年3月16日(金)19:30開演 文京シビックホール 大ホール

文:高坂はる香

俊敏な表現と繊細なささやき、美しいディーヴァの歌声

 日本を代表する二人のベテラン・ギタリスト、荘村清志と福田進一が、「夜クラシック」に登場する。緻密で力強いテクニックで奏でる、やわらかく味わい深い音楽から、心躍る情熱的な音楽まで。多彩なプログラムで夜の時間を彩る。
 二人が初めてステージ上で共演したのは、2006年。もともと三十数年来の“飲み友達”で、プライベートな集まりの余興のような形で一緒に演奏することはあったが、正式な共演は、同年にHakuju Hallでスタートしたギター・フェスタが初めてだったという。
 学んだ場所、歩んできた道のり、そして奏法や音楽性も異なる二人だが、いざ共演してみると、そんな違いがお互いの表現を補いあって、魅力あふれる熟練のギター・デュオとなった。以来十年以上にわたり共演を重ねる二人が、今回は、豊潤な歌声と優れた音楽性でオペラの舞台を中心に活躍するソプラノ歌手、林正子を迎え、また新たなコラボレーションを披露してくれる。

 荘村清志は、1963年にスペインのギターの巨匠、ナルシソ・イエペスに認められて弟子入り。スペインで研鑽を積み、国内外で盛んに演奏活動を行って、ギター音楽の魅力を多くの人に知らしめてきた。他ジャンルとのコラボレーションを行うほか、現代の作曲家のギター作品も多く取り上げているが、とくに武満徹にギター作品を委嘱してレパートリーの拡大に貢献した功績は大きい。先には2017年に70歳記念のコンサートを行い、今は2019年のデビュー50周年にむけたスペシャルプロジェクトの真っ最中だ。円熟のときを迎え、その音色はますます味わい深くなっている。

荘村清志

©得能通弘 CHROME

福田進一

 一方、荘村の8歳年下の福田進一は、1977年にフランスにわたり、パリ・エコールノルマル音楽院でアルべルト・ポンセ、シエナ・キジアーナ音楽院でオスカー・ギリアに師事。1981年パリ国際ギターコンクールで優勝し、以来、日本はもちろん欧米でもツアーを行って世界的な活動を続けている。後進の指導にも力を入れ、その門下から、鈴木大介、村治佳織、大萩康司や朴葵姫などが巣立った、日本のクラシックギター界を牽引する存在でもある。卓越したテクニックと作品解釈への評価も高く、ギター音楽の可能性を切り拓いてきた存在だ。

 お互いの音楽性に信頼を寄せる二人。荘村は福田の演奏について、「自分の音楽を主張しながらも、共演者の音を本当によく聴いている。こちらが即興的に何かをやっても、完璧にピタッとつけてくれるので、安心して遊んだり歌ったりすることができる」と話す。福田もそれをうけて、荘村との演奏は、「今日はこういう感じだよ、と楽しく音で話しかけてきてくれるので、こちらもそれに返して会話を重ねるおもしろさがある。個性が確立されていて、“どこを切っても荘村清志”、まるで金太郎飴」と続ける。
 「舞台の上で将棋をさしているのをお客さんに見てもらっている感じ」(福田)、「ステージ上の自分たちが楽しめていれば、それが伝わる」(荘村)とも語り、ギター音楽は、表現に自由が許されていることが魅力だと口をそろえる。彼らの演奏がその場で生まれるライブ感にあふれているのは、そのためだ。
 この名手たちとの初共演について、林正子は、「お二人のギターの巨匠と共演できる機会なんてなかなかないのでうれしい」と話す。東京藝大、同大学院ののちジュネーブで学んだ彼女は、普段オペラの舞台を中心に、ドイツものに多く取り組んでいるが、もともとご両親がタンゴの愛好家だったことから、スペイン音楽への憧れが強いそうだ。スペインものを歌う今回は、その分野に精通する二人から多くのことを学びたいと意欲を見せる。

 プログラムは、前半はギターによるソロやデュオ、そして後半は、歌とギターによるスペインものの歌曲が中心という、バラエティに富んだ内容。
 まず楽しみなのは、「夜クラシック」シリーズテーマ曲であるドビュッシーの「月の光」の2台ギター編曲版。荘村が編曲を手掛けた、二人が以前から取り上げている楽曲だ。ギターならではの柔らかい音色が、夜空に美しくにじむ月の光を描き上げるような、幻想的なオープニングに期待できそう。
 その他ギター・デュオでは、スペインものからファリャの「スペイン舞曲」第1番や、タレガの「アルハンブラの思い出」といった有名曲、また二人の音楽性を熟知する福田の弟子、鈴木大介が編曲を手掛けた、モリコーネの「ニュー・シネマ・パラダイス」も演奏される。両者の音が混ざり合うと同時に、それぞれの個性も際立つアンサンブルで、有名曲が特別な風合いをもって響くだろう。

©日本コロムビア

 ソロでは、まず福田が、アルゼンチンの作曲家、ピアソラによる「ブエノスアイレスの四季」より「春」を演奏。2台ギターによる演奏が続く中、1台でも充分な迫力が感じられる作品だということに加えて、2018年は、福田が初めてブエノスアイレスに行ってからちょうど20年にあたるという感慨もあって選曲したという。

 荘村が演奏するのは、スペインの作曲家、ピポーの「歌と舞曲」第1番。荘村の師匠であるイエペスに捧げられた、爽やかな音楽の中に哀愁が漂う名曲だ。若き日から長らく弾き続けてくる中、自らの表現の変化を感じながら、今回も作品を届けたいと荘村は話す。

林 正子

©anju

 そして興味深いのは、林正子を迎えた後半の冒頭、歌曲のほうの、ドビュッシー「月の光」が披露されること。
 前述の、シリーズテーマ曲の「月の光」は、原曲がピアノのために書かれた「ベルガマスク組曲」の1曲だが、この歌曲はまったく別の作品。ピアノ版「月の光」の着想の源ともなった、フランス象徴派の詩人、ポール・ヴェルレーヌの詩に曲がつけられたもので、甘く切ない美しさを持つ。今回は、福田が編曲を手掛けたバージョンが披露されるということで、ギター編曲版を聴くという意味でも、一つの公演でピアノ曲の「月の光」と聴き比べられるという意味でも、貴重な機会となりそうだ。
 また、スペインものとして取り上げられるのは、まずグラナドスの歌曲集「トナディーリャス」(昔風のスペイン歌曲集)からの4曲。荘村と福田がそれぞれ2曲ずつ演奏を担当し、林と共演する。男女の恋愛を歌った情熱的で物悲しいメロディを、林が、熟練のギターを相手に歌い上げるさまを想像すると、ワクワクしてくる。
 そして、ファリャの「7つのスペイン民謡」。こちらは福田の編曲で、2つのギターと歌による共演となる。快活でリズミカルな曲から、暗く情熱的な曲まで、さまざまな表情を持つ7つの小さなドラマが展開する。

 いつも大きな劇場で大編成のオーケストラとともに歌っている林にとって、ギターという繊細な音色を持つ楽器と共演することは、別の種類のチャレンジだという。パワフルでやわらかく、ドラマティックな声を持つ歌姫は、二人の名手を従えてどんな顔を見せるのだろうか。当日は、普段とはまた一味違った彼女の表現力が発揮されることに期待したい。

 荘村と福田は仲が良いというだけあって、公演前に行ったインタビューでもリラックスした楽しい話を聞かせてくれたので、当日はトークも盛り上がりそう。ギターならではの俊敏な表現と繊細なささやき、美しいディーヴァの歌声に酔いしれ、さらには合間のトークで笑顔になれる、盛りだくさんの一夜となりそうだ。

夜クラシックVol.16

2018年3月16日(金)19:30開演 文京シビックホール  大ホール

公演情報

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プロフィール

取材・文 高坂はる香

音楽ライター、編集者。大学院でインドのスラム支援プロジェクトを研究。その後2005年よりピアノ専門誌の編集者として、ピアニストや世界の国際ピアノコンクール等の取材を行う。2011年よりフリーランスとして活動。雑誌やCDブックレット、コンクール公式サイトやWeb媒体への寄稿のほか、
「クラシックソムリエ検定公式テキスト」の編集などを手掛ける。
HP「ピアノの惑星ジャーナル

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